いつしか心は悲鳴をあげていた。声が出なくなったボーカリストの『秘密』
大丈夫、大丈夫…。いつも心で唱えている。
毎月25日に発表している新曲たち。
手紙を書くように、自分の気持ちを歌で届けるをテーマに、妻へ向けた『おはようがすき』、弟へむけた『おとうと』、応援してくれるみんなへ向けた『ともだち』など、僕の大切な人たちへの想いを歌にしてきました。
そして、今月は、僕から僕への歌です。
実は、僕の中には2人の「北川けんいち」がいます。
ひとりは、歌が大好きで、みんなと音楽で遊ぶのが大好きな自分。高校で音楽をはじめた時から、ロードオブメジャー時代も、ソロになってからも、ずっと変わらないのが「歌が好き」ということ。
もうひとりは、歌うことに弱気な自分……。
実はここ2・3年、ライブ中に急に声が出なくなることが何度かありました。声がでなくなると、30分くらいは話すこともままなりません。
もう申し訳なくて、情けなくて、泣けてきます……。
僕の歌を楽しみに聴きに来てくれたみんなに対して何もできない自分。もう凹みます…。凹みまくります……。ボーカリストとして、本当に情けなく思います。
そんなことが続いていたので、前回の記事「足は震えるわ、声は出ないわの僕を支える『大切なもの』」にも書いたけど、歌うのを「やめよう」と本気で考えてました。病院で治療するか、発声法を見直すか。でも、そこまでしてボーカリストを続けようという気力が湧かない僕。
それでも「歌うたい」を続けることを決めました。
これも前回の記事に書きましたが、歌を続けたいと思えたのは、一人ひとりの僕を応援してくれるファン、というか「ともだち」のおかげだし、僕を支えてくれる妻やみんなのおかげです。
ですが、「声の問題」は解決したわけではありません。
今でも、人前で歌う時には「今日は大丈夫かな。今日も声がでなくなったら、どうしよう」と不安な僕がいて、もう一人の僕が「大丈夫だよ」と言い聞かせている状態です。ちょっとでも声が裏返ったりすると、心がザワつきます。正直、自分に精一杯で、聴きに来てくれた一人ひとりに向かって100%の想いで歌えていません。
それでも、みんなの拍手に生かされて、今の僕はなんとかやっています。
そんな想いを歌で表現してみました。新曲『うたがすき』を、よかったら聴いてみてください。
Keys , Programming & Arranged by sugarbeans
Mixed & Mastered by 上野 洋
★『うたがすき』はSpotifyやApple Musicなど、各種音楽配信サービスで配信中!詳しくはコチラ
……いかがでしたか?
この歌は誰かに「ありがとう」を伝えたいとか、「こんなメッセージがあるんです」なんてものが一切ありません。自分が思っていること、自分の気持ち、自分の現状を言葉にしたただのノンフィクションの歌です。
でも、曲が完成した後に振り返ってみると、僕がこれからも歌っていくために、どうしても必要な一曲だったように感じます。
今回も歌が完成するまでの「道のり」を紹介します。
===
はじまりは、佐渡島さんからのひとこと
この歌をつくるキッカケになった瞬間を、今でもはっきりと覚えています。
去年の11月4日。天気は晴れ。渋谷『LOFT HEAVEN』で行った「リボーン」ライブの日でした。
午後イチから開始したライブを終え、夕方から開催されるファンミーティングの会場へ歩いて向かう途中。ライブの興奮が冷めやらぬなか、曲づくりを一緒にしているコルクの佐渡島さんから、こんな話が。
「けんいちさん自身について語った歌を聴きたいですね。ロードオブメジャーをはじめ、これまでのことを全て踏まえて、今どういう気持ちで音楽やファンと向き合っているのかを知りたい。それがファンの人にも、すごく受け入れてもらえる曲になるような気がするんですよね」
その時の、僕は「あぁ。はい」と気の無い返事をしました。
んんん…じぶんの歌かぁ。僕のライブやファンのみんなの姿を直に観て、佐渡島さんがそう感じたなら、きっとそういう曲が必要なのかもなぁ…。でも、書くのは大変そうだし、なんとか濁そう。そんなことを当時は考えてました(笑)。
そこからの記憶が曖昧なんですが、LINEを遡って見たら驚いた!
ふ、ふ、2日後に曲でけてる!!
ど、ど、どうしたけんちゃん!すんごいやん!
Twitterも見てみたら、こんなツイートが!
では、その時に生まれた曲『うたごえ』を聴いてください。
うたごえ・歌詞
つらいよな つらいよな
目の前でぼくの大好きな君が泣いている
探しても 探しても
君のその涙を止めるすべを ぼくは知らない
等しく しあわせ そうあるべきだが
よーいどんの時点で ぜんぜんちがう
拭うだけ 拭うだけ
止められないけど
いるだけ いるだけ
SOSだけは見逃さないように じっとここにいる
心ない言葉に傷付いたり 正論に追い詰められたり
なんでぼくらのこころは土足で 踏みにじられるんだろう
ぼくがぼくを愛している
ぼくがぼくを愛せている
それは ぼくがきみを きみがぼくを
信じているからなんだ
うたごえできみを救えるとおもっていた十代
うたごえできみを救えたとおもっていた二十代
実はぼくが救われていたと知った三十代
支える番支えられる番って互いに支え合えたらな
うたってなんだろう うたになにができるんだろう
それを死ぬまで追い続けるんだろう
ぼくがぼくを愛している
ぼくがぼくを愛せている
それは きみがいつも 変わらずぼくを
信じてくれるからなんだ
つらいよな つらいよな
目の前でぼくの大好きな君が泣いている
きみがぼくを信じてくれたように
ぼくはきみを信じているんだ
きみがきみを愛せるまで
ぼくがずっとここにいる
大好きな君が笑うまで
ぼくがずっとここにいる
なにもできないけど なにもできないけど
そうするって決めたんだ
ぼくをみつけて
ぼくを知って
ぼくを信じて
くれてありがとう
安全地帯から歌っているような歌…!?
曲づくりをしている時は、集中しているため、客観性を失ってしまう。だから、曲が完成したら、時間をおいてから聴き直したりして、冷静になって曲と向き合います。
完成した『うたごえ』を、寝て起きて、あらためて聴き直すと、なんだか「これではない」という気持ちが次第に強くなっていきました。
だが、「どう修正していくか?」「なにがダメなのか?」が、自分のなかで明確にならない。そこで、佐渡島さんに相談してみました。
ゴロゴロゴロ。。。ドーーーーーン!!
雷にうたれた!!
安全地帯から「きみ」に歌っているような歌………
自覚ありまくり……
これは「だから曲が悪い」とかではなく、あくまで「そういう視点でみると」な話なのですが、『おはようがすき』や『おとうと』は僕が安全地帯にいて、そこから妻や弟に対して歌っています。
おい!他人のことばっかりさらけだしやがって、いざ自分の歌となったら自分をさらけださへんって、さいってーだな。けんいち氏!でてこいよ!
書くことにしました。誰にも言わなかったことを……。
そうして、じぶん視点で『うたごえ』のメロディーにも当てはまるように歌詞を書いてみました。
すると、佐渡島さんから、こんな返信が。
もう最高のパス。踏み込んだアクセルを、僕はさらに「これでもか!」と踏み込む。
「視点を変えて書き直します」と言ったのが、15時32分。1番の歌詞まで書いたのが、15時53分。全ての歌詞を書き終えたのが、16時10分。
40分たらずで歌詞が書きあがりました。今までに経験のない速度です。
そして最後に、佐渡島さんから、こんなアドバイスをもらいました。
この時の僕は自分を「さらけだす」こと、自分を「深くふかく掘る」ことに没頭していたので、歌詞だけ読むと希望のない歌になってしまっています。聴いた人が「じゃあ、なんで歌ってるの?」と疑問を抱いておかしくない。
でも、この時の僕は、素の自分の気持ちをただただ歌詞にしたいと思っていたので、佐渡島さんからアドバイスしてもらった「僕の思いが誰かに届くと、今日も僕は生きていける」という歌詞を入れることに抵抗を感じていました。
でも、時間が経つにつれ、やっぱり佐渡島さんの言うように、「そんな僕がなぜ歌えているのか」を締めの一文として入れるべきと思い、最後にこう書き足したのです。
それでもまた ステージにいる
じぶんでも 理解に苦しんでる
だけどまた ステージにあがる
あなたの拍手に生かされてる
大丈夫
大丈夫
歌詞にあわせてメロディーを書き直す!
そして、歌詞が全て完成したタイミングで、メロディーをガラッと書き直すことにしました。
もともとは『うたごえ』のメロディーを活かす方向で、歌詞を書き直していましたが、歌詞の世界観がガラッと変わったので、このメロディーのままだと「お涙ちょうだい」の冷めちゃうバラードになってしまう。
この歌詞は誰かに「ありがとう」を伝えたいとか、「こんなメッセージがあるんです」なんてものが一切ない。僕の気持ちや現状を言葉にした、ただのノンフィクション。もっと淡々としたメロディーにするため、曲をゼロから作り直しました。
そうして、生まれたのがコレ。
はじまりを削ったり、すこし違和感があるところを変えたりして、完成!
改めて、佐渡島さんに聴いてもらいます!
よーしよーしやったぞーう!よーっしゃよーっしゃ〜
そしてアレンジ。いつものごとくsugarbeansに相談します。
この曲をアレンジする上でいちばんやってほしくないのは弦(バイオリンやチェロなど)を入れること。39歳の男が葛藤している現実を感動的に演出したらさぶい。むっちゃさぶい。
……なんてことひとことも言わず送信(笑)。
かえってきたアレンジ聴いてビックリしました。
「あれ?ぼく、彼と一緒に紙ひこうきで遊んだっけな?おなじ思い出にいるー!」そんな風に思わされました。
はじめにオルガンが鳴った時点で「そうそう!そうやねん!」と。そしたら、打ち込みのリズムがきて、気づけば、アレンジチェックの耳じゃなく、この曲の世界を味わう耳に変わってました。
この歌には生のドラムの音じゃない、感情を感じられない打ち込みのリズムなのがいい。いるだけ。鳴ってるだけ。それがより、この歌の世界観を、ひとりの世界観を際立たせる。
感動を誘わない。狙わない。これに尽きる。ありがとう!!
そしてサウンドエンジニアの上野さん。言うことないです。もう最高です。
『うたがすき』をタイトルにした理由。
実は、最後のさいごに、タイトルを変えました。
ずっと『あなたの拍手に』というタイトルで制作を進めていたのだけど、しっくり来ていなかったので妻に相談したんです。
そしたら、前回の「足は震えるわ、声は出ないわの僕を支える『大切なもの』」の記事の話になり、妻がこう言いました。
「(僕が)音楽を辞めようとしてた時におもってん。辞めようとしているのに、声が出なくて不安だって言っているのに、どうにか歌を続けようとしている。歌にしがみつこうとしている。あぁ……この人は本当に歌が好きなんやろなぁって。」
「待って待って待って!それやぁぁぁ…!『うたがすき』いいやん!!
タイトルまで含めた作品になる!なにより楽曲自体がポジティブに捉えられて、よりピントが合う!」
こうして『うたがすき』は誕生しました。
この歌は現在地。今の自分を刻んでおくためにつくった曲です。
自分の弱い感情を赤裸々に歌詞にしているので、書きながら号泣してしまいました。佐渡島さんとのメールでも、こんなことを言ってます。
この目印をつけた地点から、これからの僕はどこにどれだけ進んでいけるのだろうか……。「あの時は、そんなこと思ってたなぁ」と、未来の僕が過去を振り返った時に、この歌の真意が問われる気がします。
それを、その瞬間を「ともだち」のみんなと一緒に一喜一憂できたらいいなぁ……なんて思ってます。
ひとりじゃこんな歌、絶対に書けなかった。
でも、書けた(笑)。
みんなのおかげです。ほんとうにありがとう。
熱男ぉぉぉぉ!!
※ソフトバンクの松田選手に似てるかどうか、ぜひライブ会場に生で確かめにきてください(笑)
<編集協力:井手桂司>
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