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「おはようがすき」

はじまりは4月。佐渡島さんとどういう曲をどういう風に作っていくか。麻布のめちゃ美味しい中華料理を食べながらお話しした。本当にただの雑談を1、2時間ほどだろうか。デザートをいただき、お腹もいっぱいでジャスミンティーを飲んでいると佐渡島さんが

「1曲目は奥さんにむけて、2曲目はお客さんにむけて、3曲目はフックのある曲にしましょう。手紙のように、その人にむけてメッセージを書いてください。

ここ数年ライブは年1、2回。誰にも言ってはいなかったが、ほぼ引退して神戸でのんびり妻と犬との暮らしを満喫していた僕の生活圏は、驚くほど狭い。この日佐渡島さんが曲になりそうだと言ってくれたネタは、「妻、お客さん」この2つだった。そしてもうひとつ。

「ライブをする時、僕らが納得する曲を2曲演奏するというのを秋までの目標にしましょう!」

毎日何をするでもなく「楽しい、幸せだ」と生きている僕に、この目標はものすごく大きな指針となった。僕はまず、妻への手紙を書くことにした。

まず箇条書きで、思いつくままになぐり書いた。芥川賞作家の編集をしてる方に僕の拙い文章を見せるなんて恥ずかしい。とも思ったが、そんな方に編集してもらった歌詞なら自信をもって歌える!の気持ちが勝ち、見直すこともなくなぐり書いた1590文字を送った。

その中から「ここいいですね」と言っていただいた言葉を歌詞に書き起こした。

また駄目だった
そっか うん そっか
また次頑張ろう
なんてとてもじゃないけど言えないや
ただそばにいる
ただそばにいる
そしてあなたが絞り出した
言葉を解剖する

君が泣かないのに 僕が泣くわけにはいかない
だけど泣かないでいる君に 僕は泣いてしまいそう
今は何も言わない 違う 言えないが
刻一刻と変わっていく
蝕まれていくその心を
目と耳をこらして守る
守るんだ

君の口から 滑り落ちた
言葉を拾い集めた
ズシンと腕に かかる重みに
ぎゅっと力がこもる
今は君の 今は君の 笑顔が つらい
迷惑をかけて欲しい
心配をさせて欲しい
ここにいるから
いつもここにいるから
もっと君を知りたいから

これに次はメロディをつけていく。

基本的に携帯のボイスメモにこうして録音していく。曲の種だ。入り口は思いついたもので、途中からアドリブで展開していき、そのままうまくいって1曲出来るなんてことも年に一回くらいある(ウルトララッキー)このボイスメモはこの先行き止まる。(平常運転)

そして次にできたのがこれ。いわゆるサビという部分。

で、できたのがサビだけ違うこの2つ(サビは1:40〜。そこまでは全く同じ。)

2の方がいいね。となったのだが、歌詞を見たときと歌になったときではイメージが違うという話になる。

「北川さんが奥さんの話をしているとき楽しそうだから、それが伝わるような歌がいいかもしれないですね。」

僕はハッとした。この時期、ちょうど妻との病院通いの中で、すごくショックなことがあったので、そのある種特別な今の気持ちを歌にしたい。そしたら僕の高ぶった感情が歌に乗って、同じような心境の人にすごく伝わる。そう勘違いしていた。今までも、特別な気持ちになったときに歌にする。なんてことをしてきた。それが僕のオリジナルだと思っていたから。

この曲をやめて、新しく1から曲を作ることにした。

「ちょっとした短編くらいの長さがあってもいい。その手紙を歌詞にするのも、やり方としてはありかもです。」

仕切り直し。もう一度はじめから、妻への気持ちを書こう。短編か。。。歌詞の長さの文章しか書いたことないから、まとまったのは書けないなあ。ま、いいか書こう。

と書いた2595文字。短編の長さの基準は知らないが、僕にはすんごい長さ。これを読んだ佐渡島さんが「ここから4つ曲ができますね。」と言った。僕はまたハッとした。妻への歌をテーマに書いたときに、「これも入れたい!この気持ちもあの気持ちも」と、どんぶりの上にカツもすき焼きも海鮮も!って、食べたいの全部入れたって美味しくない。言いたいこと歌に詰め込んだら何も伝わらない。でも、ずっとそれをしてしまっていた。結果、曲のメッセージがぼやけていたんだと思う。

その4つの中から、「僕は妻のおはようがすき」という部分を歌にすることにした。わりとすんなりと曲の入り口は出来た。

この時点ですぐに佐渡島さんに聴いてもらう。好感触。続きを作る。短編手紙の中のこの章を膨らませて、時間はかかったが

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12個目のサビでやっとこの曲にぴったりなサビ(盛り上がるところ)ができた。「しょーもないよなしょーもないよな」である。。今聴くと他にもいいのあるなあ。。。

ここでワンコーラス(歌の1番)までができた。でも、なんだかしっくりきていなかった。ボツにしようかなと悩んでいて、その日一緒に買い物に行く妻に、車の中で聴いてもらった。僕は、妻への歌を、完成する前に妻に相談したのだ。すると

「なんであかんか分からん。」

と言い放ったのである。あれ、これいいの?いけてる感じなの?と佐渡島さんに聴いてもらったら、「いいですね」だった。

迷っていたのだが、この曲は妻への手紙なのだ。その妻がこれでいいと言ったのなら、それは正解なのだ。ということで、これで作っていくことに決めた。

曲全体のメロディができあがれば、あとは自分の中を掘って、歌詞を膨らませる。携帯にたくさんしたメモから使えそうなのをピックアップし、ノートで構成

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できた!佐渡島さんに聴いてもらおう!少しして

「これで行きましょう」

その瞬間「やった!」より「しまった!」という気持ちがおおく押し寄せてきた。

沖縄ラフアンドピース専門学校にて、インパルス板倉さんとの対談で佐渡島さんが言っていた言葉を思い出した。

「新人作家はどんどん描き進めていくんじゃなくて、少しずつみせてほしい。じゃないと軌道修正がきかなくなって、書き進めた部分全部捨てなくちゃならなくなるから」

実際、「どこかなおすところありませんか?」と聞いたところ

「下手にいじると崩れちゃうから、変にいじらない方がいい。このままでも北川さんの優しさが伝わればいいんじゃないですか?それより数書いた方がいい。この1曲に完璧を求めるんじゃなく、たくさん書いて発表していく中で、10曲20曲に1曲、心底2人が納得できるものがあればいい」と。

まあ結局レコーディング前に僕、歌詞いじったんですけど。笑

そうしてできた曲が「おはようがすき」

Piano & Arranged by sugarbeans
Mixed & Mastered by 上野 洋

歌詞!

おはよう ありがとうね 君が言う
おう おはようって 僕が言う
君にきづいて 犬がじゃれる
僕も犬も 君が起きたのを よろこんでる

あのね ぼくね 言ってなかったんだけどね
君のおはようがすき
なんとなく ただなんとなくさ
そう言ったけど ほんとはちゃんと 理由はあるんだ

へんな寝ぐせを 君にみてもらう朝
ここになんかできてない?って ぼくがおできみせられる朝
奇妙で怖い夢のはなしを ぼくが聞かされる朝
ずれたパンツそのままにして 君におしりみせる朝

しょーもないよな しょーもないよな
そんなじぶんでいられる 君の前
知らなかったな 知らなかったな
そんなじぶんをみつける 君の前

君のいない 朝のこと
歌詞をかくため そうぞうしてみた
いやだ むりだ つらすぎる
きっと僕は こわれちゃう 平気なフリをして

なんにも考えてないわけないのに
なんにも考えてないみたい
そんな君が僕をいつも 安心させてくれる
だから僕は君の おはようが好き

しょーがないよな しょーがないよな
嫌いなじぶんを愛せた 君の前
知らなかったな 知らなかったな
ほんとうのじぶんに やっと出会えた
安心っていうのは 僕の土台なんだ
だからへらへら 笑ってられる
そして何度でも 何度でも
なりたいじぶんに生まれかわる 君と僕

僕は君の おはようがすき
君は僕の なにがすき?
やっぱいいや 言わないで
その言葉 これからうまく 言えなくなりそうだから
言わなくていいや


僕の妻との日常の中でも「朝」「おはよう」のシーンを切り取った歌です。妻がゴミ箱から拾ってくれた僕の歌です。数ヶ月前まで、もう歌うこともないし、新しい曲を作るなんて考えもしなかった僕の、まさかの1歩目です。誰よりまず、僕が感動してるんですけど、いいですよね。もしかしたら妻でもなく(妻へなんですけど)1番は、僕へのメッセージソングなのかもしれない。


あ!

最後に、その手紙をおいときます。あまりにセンシティブな内容は削ったので、2595文字もありませんが。これを読むと、また曲への感じ方がかわったりするのかなあ?

いろんなことをそうぞうしながら。

音楽ってほんと、おもしろいですね。あなたに何かひびくと、うれしいなあ。



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